骨盤底筋トレーニング
出産後や更年期前後には、多くの女性が新たな腹圧性尿失禁を発症します。腹圧性尿失禁とは、尿意(膀胱に尿がたまって排尿したいと感じること)を感じていないのに、からだに力を入れると尿道を通って尿がもれ出てしまうことです。
重いものを持ち上げたときや駆け出したときなどのふとした尿もれは、そのサインかもしれません。でも、正しい排尿習慣や骨盤底筋トレーニングによって、多くの女性の腹圧性尿失禁は劇的によくなります。
[監修]社会福祉法人三井記念病院 産婦人科 中田真木先生
骨盤底筋トレーニングを動画で解説
腹圧性尿失禁の軽減に効果が期待できる「骨盤底筋トレーニング」の正しい方法を動画で分かりやすくご紹介します。
自宅でできる4種類のトレーニングから、ご自身に合ったものを見つけて、毎日の習慣にしてみてください。
「骨盤底筋」とは
骨盤底筋は、膀胱・子宮・直腸などの臓器を骨盤の出口の部分で支えている筋肉のグループです。尿道や肛門の開閉にも関わっており、妊娠出産、加齢、肥満でこの筋肉がゆるむと、骨盤底筋は重力に負けて尿がもれやすくなります。繰り返し咳やくしゃみが出ている場合も、骨盤底筋は緩みやすくなります。
骨盤底筋は、体幹の奥にあるインナーマッスルです。体表近くにある筋肉と異なり、正しく動かせているかを自分で判断しにくいという特徴があります。そこでまずは、骨盤底筋がどの位置にあり、どんな働きをしている筋肉なのかを知ることから始めましょう。
椅子に座り、両方の手のひらを上向きにしてお尻の下に置きます。指が触れる、かたい骨のでっぱりが坐骨結節です。「骨盤底」は、この坐骨結節の間に張っています。
持続的な収縮ととっさの収縮
両方を鍛えて尿もれ予防へ
骨格筋には、持続的に収縮することが得意な筋肉線維(遅筋)と瞬時に強く収縮することが得意な筋肉線維(速筋)があるといわれており、ひとつひとつの骨格筋は、遅筋と速筋の線維が混ざり合ってできています。
骨盤底筋はもともと、持続的な緊張を保つことを得意とするインナーマッスルです。私たちがからだを起こしている間、骨盤底筋は完全に力が抜けることがなく、神経から絶えず筋収縮の電気刺激が伝えられています。持続的な収縮はまさに遅筋の得意分野であることから、骨盤底筋は遅筋線維を主体とする筋肉だと考えられています。
トレーニングをする際は、姿勢に応じて力を抜き、スロースクイーズ(ゆっくりと締める)を毎日少しずつ行うことから始めましょう。尿もれの予防・軽減には、腹筋や背筋に力が入るのに先立って骨盤底筋が収縮する機能も大切です。クイックスクイーズ(とっさに締める)トレーニングの解説もあわせてご覧ください。
骨盤底筋トレーニングをイラストで解説
骨盤底筋トレーニング基礎編
基礎編は骨盤底筋にかかる負荷が低く、動きを感じやすい姿勢で構成しています。応用編は椅子に座る・立つなど、日常生活に近い、より負荷の高い姿勢で行います。まずは基礎編で正しい締め方を覚え、慣れてきたら応用編で試してみましょう。
仰向けの姿勢で
重力の影響を受けにくく、骨盤底筋の動きをいちばん感じやすい姿勢です。
初めての方はまずこちらから
はじめての方
おすすめのセット数
Aのトレーニング 10回+Bのトレーニング10回=1セット
1日2~3セットを目指しましょう。
まずは、1分間を1サイクルとして5秒かけて締める動作を10回行い、骨盤底筋を使う動作をしっかり体感しましょう。慣れたら、短く強い収縮(15秒を1サイクルとして1秒間だけ、できるだけ強く締める。10回反復)も追加。1日3セットを目安に続けましょう。
床に座って壁に寄りかかった姿勢で
上半身を起こす分、仰向けより少し負荷が上がります。壁の支えがあるので無理なく続けられます。
骨盤底筋トレーニング応用編
応用編の姿勢は、状況に応じて組み合わせて構いません。ここまでマスターすれば日常いつでもできるので、思い出した時にぜひ行ってください。
椅子に座った姿勢で
日常の中で取り入れやすい姿勢です。
立ったままの姿勢で
全身の体重が骨盤にかかるため、もっとも負荷が高い姿勢です。
骨盤底筋トレーニングに関するよくある質問
Q1. 骨盤底筋がどこにあるかわかりません。
自転車や二輪車のサドルに腰をかけた姿勢をとると、骨盤底はサドルに支えられます。最近では、妊娠中の骨盤底を守るなどの目的で、座面が二輪車のサドルに似た形状のサドル椅子も多数販売されています。ご自宅で試す場合は、バスタオルを円柱状に巻いてスツールの上に置き、それに跨るように腰かけてみてください。骨盤底が下からタオルに押される感覚がわかるはずです。骨盤底筋トレーニングを始める前には、まずこうして骨盤底筋の位置を意識することから始めましょう。
Q2. 骨盤底筋トレーニングの注意点は?
骨盤底筋を締めているつもりでいきんでしまっている人がいます。いきんでいる場合、下腹部に指(指先よりも指の腹)をあてると腹壁の筋肉が硬くなっています。いきんでしまっているかもしれないと思ったら、いったん骨盤底筋トレーニングをやめて産婦人科などで動作が正しいか見てもらいましょう。
また、排尿中に骨盤底筋を締めて尿の流出を止めるトレーニングをすることはやめましょう。排尿を分断すると、排尿再開の時にはまたいきむことになります。いきんで排尿するくせがつくと、腹圧性尿失禁は悪化します。
排尿の理想像は、尿意がある状態でトイレに入り、排尿の体勢をとって自然に膀胱と尿道が尿を排出し始めるのを見守り、穏やかに一続きに最後まで排尿することです。膀胱と尿道が排尿を始めたら、あとは尿の排出を見守ります。いきんで尿を絞り出したり排尿の途中で骨盤底筋を収縮させたりすることはやめましょう。
Q3. トレーニングをしても効果を感じません。なぜ?
骨盤底筋を締める動作が正しくできていない、トレーニングの効かないタイプの尿もれである、などいろいろな原因が考えられます。動作に自信が持てない場合、および、1か月ほど続けてみて効果を感じられない場合には、女性の骨盤底に詳しい泌尿器科や産婦人科を受診して原因を調べるのがよいでしょう。
Q4. 尿もれ改善以外にも効果はありますか?
骨盤底筋トレーニングには、女性一般において、軽症の腹圧性尿失禁を軽減する効果と初期の骨盤臓器脱の違和感を軽減する効果があります。また、出産後のトレーニングには、産後6か月程度までの期間、疲労して傷んだ骨盤底の回復を早める効果が確認されています。
一方、骨盤底筋トレーニングが骨盤臓器脱の進行を遅らせるかどうかは疑問で、出産後6か月を超えるとお産の後にトレーニングをした人としなかった人の比較で、尿失禁の保有率には差がなくなります。
骨盤底筋トレーニング以外にも有用な対策はたくさんあり、個々の女性に合わせて調整します。
監修
社会福祉法人三井記念病院産婦人科
中田真木先生
1981年東京大学医学部卒。産婦人科専門医を目指して研修開始。
1991年から2年間、欧州に現存する最古の病院 Hôtel-Dieu de Parisで婦人科外科部門のレジデンシー、婦人科と骨盤底の手術を学ぶ。帰国後は都内の病院で働き、専門の診療の他、尿失禁手術と骨盤底再建手術の開発と普及に携わる。2002年より、三井記念病院産婦人科に勤務。現在は同施設の嘱託として仕事を継続。




