くしゃみでもれる、トイレが間に合わない…
尿失禁の種類について主な症状と対策を解説
くしゃみや運動での尿もれ、急な尿意など、40〜60代や産後の女性を悩ませる尿失禁。本記事では専門医監修のもと、尿失禁の種類や根本的な原因とあわせてセルフケア、悩みの解消につながる受診のタイミングまで詳しく解説します。
日常生活のあるあるから尿もれの種類と特徴をチェック
尿もれは、その原因によってさまざまな種類に分かれており、症状の現れ方も異なります。
尿もれの対処法や医療機関を受診する目安がわからない場合には、まず日常生活で悩んでいる症状の特徴から、当てはまる種類について整理してみることをおすすめします。
万が一、尿意がはっきりとしない、尿を出すときにおなかに力をいれて出している、下肢のしびれがある等の症状が見られる場合、単なる尿もれではない可能性があるため、速やかに医療機関を受診しましょう。
咳やくしゃみ、運動によって少量の尿がもれる
咳やくしゃみをしたとき、運動や重い物を持ち上げたときに少量の尿がもれる場合、それは「腹圧性尿失禁」の症状である可能性が高いです。これらの動作でおなかに力(腹圧)がかかった際、尿道を締める力が不十分な場合に尿もれが起こります。その背景には、骨盤底筋がうまく機能していないことがあります。
骨盤底筋の筋力低下には、出産、加齢、肥満などが主な要因として挙げられ、多くの女性にとって身近な問題です。対策としては、骨盤底筋トレーニングが有効です。継続的に行うことで、尿もれの予防や改善が期待できます。
腹圧性尿失禁について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:腹圧性尿失禁
急な尿意でトイレに駆け込み間に合わないことがある
突然、強い尿意に襲われてトイレまで我慢できず、尿がもれてしまう場合は「切迫性尿失禁」が疑われます。トイレが近くなる「頻尿」や、夜中に何度も目が覚めてトイレに行く「夜間頻尿」などの症状を併発することも多いのが特徴です。
原因としては、膀胱(ぼうこう)が自分の意思とは無関係に収縮してしまうことが挙げられます。背景には、膀胱の過活動、脳や脊髄といった神経系のトラブルのほか、加齢やストレスなどの影響も関係しています。こうした症状が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
セルフケアとしては、排尿間隔を徐々に延ばしていく「膀胱訓練」が有効です。無理のない範囲で実践することで、膀胱の容量が増え、症状の改善が期待できます。
切迫性尿失禁について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:切迫性尿失禁
くしゃみに伴う尿もれ、急な尿意のどちらにも心当たりがある
くしゃみや咳で尿がもれる症状と、突然の強い尿意でトイレに間に合わない症状の両方がみられる場合は、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が混在した「混合性尿失禁」が考えられます。
腹圧性尿失禁は、腹部に力が加わった際に骨盤底筋の支持力が弱まり、尿道の締まりが不十分になることで発生します。切迫性尿失禁は、膀胱が意思とは無関係に収縮することにより、強い尿意を我慢できなくなることで生じます。
混合性尿失禁は、両方の要因が関与しており、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。症状の現れ方や主な原因は個人差が大きいため、早期に医療機関を受診し、尿失禁の種類を正確に把握した上で適切な治療を受けることが重要です。
残尿感がありながら少量の尿がもれ続ける
少量の尿がじわじわともれ続け、常に残尿感を伴う状態は、「溢流性尿失禁」と呼ばれます。このタイプの尿失禁は、膀胱や尿道の排出機能が低下し、尿を出し切れないまま膀胱内に尿がたまり続け、限界を超えると尿が自然にもれ出すことで発生します。
主な原因に、前立腺肥大症、神経障害、膀胱周辺の手術後にみられる神経機能の低下などがあり、男性に多くみられる傾向があります。進行すると、尿の排出障害により腎機能にも悪影響を及ぼす可能性があるため、早期に医療機関へ受診することが重要です。
治療方法としては、まずカテーテルによる導尿が基本とされ、必要に応じて自己導尿などを日常生活動作のレベルに合わせて導入することもあります。
身体や認知機能の影響でトイレに間に合わない
「機能性尿失禁」は、膀胱や尿道そのものに異常がないにもかかわらず、身体機能や認知機能の低下によってトイレに間に合わず、尿がもれてしまう状態を指します。
例えば、足腰の衰えや歩行困難、認知症による判断力や記憶力の低下が原因となります。高齢になるほどこうしたリスクが高まるため、加齢に伴って発症しやすい尿失禁の一つです。
機能性尿失禁の対策としては、トイレまでの動線を短くする、手すりの設置、衣服の着脱をしやすくする工夫などが有効です。また、定期的なトイレ誘導や声かけは本人の自立を支え、介護者の負担軽減にもつながります。
ライフステージ別に考える尿失禁の根本的な原因
尿失禁は、ライフステージによって背景にある要因が異なることがあります。例えば、若年層では生活習慣が関係する場合があり、女性の場合には妊娠や出産が骨盤底筋に影響を与えて、尿道を支える力が弱まることで尿失禁を引き起こすケースも考えられます。
中高年になると、加齢に伴う筋力の低下や膀胱機能の変化が影響しやすくなります。特に女性では、閉経後のエストロゲンの減少により、膀胱や尿道の粘膜が弱くなることで症状が現れることがあります。このように、年齢や身体の状態によって、尿失禁を引き起こす要因にはさまざまな違いがあります。
生活習慣による影響
日常の生活習慣は、尿失禁の発症や悪化に密接に関係しています。
カフェインやアルコールの過剰摂取は、利尿作用や膀胱への刺激によって尿もれを誘発しやすくなります。コーヒー、紅茶、ビールなどを頻繁に飲む方は、まずは摂取量の見直しをしましょう。
また、肥満は腹部の圧力を高め、腹圧性尿失禁のリスクを増加させる要因になります。バランスの取れた食事と適度な運動を行い、適正体重の維持することで骨盤底筋への負担を軽減し、尿失禁の予防や改善につながります。
出産後の骨盤底筋へのダメージ
出産後は、骨盤底筋が損傷や伸展を受けやすくなり、膀胱や尿道を支える機能が一時的に低下します。その結果、くしゃみや咳、重い物を持ち上げた際などに尿がもれる「腹圧性尿失禁」が起こりやすくなります。
また、出産時の神経へのダメージによって膀胱が過敏になり、「切迫性尿失禁」を発症する可能性もあります。2つが同時にみられる「混合性尿失禁」となるケースもあり、産後の女性にとって尿もれは、比較的よくある現象です。
基本的な対策としては、骨盤底筋を鍛える「骨盤底筋トレーニング」です。出産直後は無理をせず、医師の指導のもとで段階的に始めましょう。また、排尿日誌をつけて排尿パターンを把握する、適切なタイミングでトイレに行くなどの行動療法的な工夫も有効です。
産後の尿もれは一時的で自然に改善することもありますが、数カ月たっても改善がみられない場合は、早めに専門医に相談することが重要です。
加齢に伴うホルモンの減少と筋力低下
加齢とともに女性ホルモンの減少や筋力低下が進行すると、骨盤底筋が緩みやすくなります。この影響で、腹圧がかかった際に尿がもれる「腹圧性尿失禁」のリスクが高まります。また、加齢により膀胱や尿道の粘膜が変化し、過敏性が増すことで「切迫性尿失禁」の頻度も増える傾向にあります。
一方、男性では中高年以降、前立腺肥大症が原因で「溢流性尿失禁」のリスクが増します。排尿後に尿道に残った尿が垂れる「排尿後尿滴下」を尿失禁だと思って受診するケースも多くみられますが、会陰部の圧迫で予防可能であり、尿失禁とは異なる対応となる点に注意しましょう。
高齢期に生じる身体・認知機能の変化
高齢期になると、身体的な衰えや神経系の変化が重なり、尿失禁の種類を問わず症状が悪化しやすくなります。具体的には、膀胱や尿道の筋力低下、神経伝達の遅れ、膀胱容量の減少などにより、畜尿・排尿の調節が難しくなります。
さらに、脳卒中などの神経疾患や進行した前立腺肥大症により「溢流性尿失禁」のリスクが高くなります。また、歩行困難や認知症の進行によってトイレに間に合わなくなる「機能性尿失禁」も高齢者に多くみられる問題です。
専門医ではどのような治療が行われる?
尿失禁の症状改善には、種類に合わせた適切な治療が必要です。尿失禁の症状がある方は、早めの医療機関受診をおすすめします。医療機関では、さまざまな検査によって尿失禁の原因を特定でき、最適な治療法や対策が可能です。恥ずかしさや不安から受診をためらう方も多いですが、快適な日常生活を送るためにも、早めに専門医に相談しましょう。
受診を検討するべきタイミング
頻尿や尿もれが日常生活に支障をきたしていると感じたときは、受診を検討すべきタイミングです。セルフケアを3カ月以上続けても症状が改善しない場合や、尿もれパッドが手放せない状態が続いている場合も、専門医の診察を受けることをおすすめします。
また、痛みや血尿といったほかの症状を伴う場合には、尿失禁以外の重篤な疾患が隠れている可能性もあるため、早めの受診が重要です。不安な症状があるときは、自己判断せず医療機関に相談しましょう。
受診する診療科と主な診察の流れ
尿失禁を相談する際は、泌尿器科、婦人科、あるいはウロギネコロジー(女性泌尿器科)などの専門科を受診しましょう。受診先は性別や症状の内容に応じて選ぶことができます。
診察ではまず問診が行われ、尿もれの頻度や生活への影響、既往歴などについて詳しく聞かれます。次に、数日間の排尿日誌を記録し、尿の回数や量、尿もれが起きたタイミングなどを把握します。
その後、必要に応じて尿検査やエコー(超音波)検査を行い、膀胱や尿道の状態、感染の有無などを確認します。初めての受診では不安を感じる方も多いですが、原因を正確に把握することで、適切な治療への第一歩となります。
尿失禁の種類に応じて選択される治療法は異なる
尿失禁の治療は、その種類や原因、重症度によって異なります。腹圧性尿失禁では、骨盤底筋体操や薬物療法が基本で、効果が不十分な場合はTVT手術などが検討されます。切迫性尿失禁には膀胱訓練や生活指導に加え、膀胱の過剰な収縮を抑える薬が使われます。溢流性尿失禁はカテーテルでの排尿管理が中心で、ADLに応じた導尿法も考慮されます。機能性尿失禁では環境の工夫や介助が重要です。
専門医に相談し、症状や生活状況に合わせて、効果的な治療を提案してもらうことをおすすめします。
まとめ
尿失禁にはさまざまな種類があり、それぞれ原因が異なります。例えば、くしゃみや咳などでおなかに力が入ったときにもれる「腹圧性尿失禁」や、膀胱が過敏になって急な尿意で我慢できずにもれる「切迫性尿失禁」などが代表的です。
特に女性ではこれらの症状を経験する方が多い傾向にありますが、なかには重篤な疾患が隠れていることもあるため、放置は避けましょう。尿失禁によって日常生活に支障を感じる場合は、早めに医療機関を受診し、適切な対策をとることが重要です。早期の対応が生活の質の維持・向上につながります。
村上 知彦(むらかみ ともひこ) 医療法人 薬院ひ尿器科医院
日本泌尿器科学会専門医
長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て 現在は 医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科