どんな運動が効果的なのでしょうか?
やりすぎる必要はありません。定期的に適度に体を動かすことと、ときには仲間と活動することが大切です
ひとつの目安は「一週間に7.5メッツ」
運動が効果的といっても、毎日のように激しい運動をすればよいということではありません。運動の強さを「低・中・高」の3段階に分けた場合、中程度がもっともリスクを減らすことがわかっています。また、回数についても、毎日ではなく週に数回行うほうがよい可能性が高いとされています。
運動の強度については、国際的な活動量の基準であるメッツ(MET)で考えると、「一週間に7.5メッツ」を目安にするとよいでしょう。メッツとは運動や身体活動の強度の単位で、安静時を1としたときと比較して何倍のエネルギーを消費するかを示しています。例えば掃除は、1時間で2~3.5メッツです。つまり、30分の掃除を週に5回すれば、もう7メッツになります(掃除を3メッツとした場合:3×0.5時間×5回)。
特別な運動をしなくても、日常的に一駅歩く、エレベーターやエスカレーターよりも階段を使う、家事をしっかり行うなどを心掛けることが、認知症予防の一つの生活習慣であるということです。
団体に参加するなど、コミュニケーションも大切
どのような運動がよいかということについて、また別の調査があります。これはスポーツの団体に属している人、そうでない人を比較した調査です。
10,000人以上の高齢者について、運動の状況が月に1回以上のグループと、月1回未満(数か月に一度など)のグループに分け、さらにそれぞれをスポーツ団体に参加する人、参加しない人に分けます。そして4年間追跡した結果、要介護認定を受けた割合がもっとも高かったグループは、「運動は月1回未満で、団体に参加していない人」でした。
次に要介護認定率が高かったのが、「月1回以上運動をしているが、団体に参加していない人」。運動の回数よりも、「団体に参加・非参加」で差がつくという結果になったのです。
これは、やはり人とのコミュニケーションが重要であることを示していると考えられます。何らかの団体に所属していたり、他者との交流頻度が高い人(すなわち社会的に孤立していない人)のほうが認知症の発症率が低いというデータは、他にも山ほどあります。
団体などに参加して人と関わると、必然的に運動しなければならない状況が生まれます。顔色などを指摘されることもありますし、健康でいようという意識も高まります。同じウォーキングをしていても、仲間がいれば、「次は運動強度を上げるために、ノルディックウォーキングをしてみようか」といった新しいことにもチャレンジできます。それほど頻度は高くなくても、人と会うことで刺激を得ることが大切なのです。
認知症につながる認知機能の低下具合を、チェックできる運動はありますか?
歩きながら課題をこなす、二重課題歩行がおすすめです。できない場合は『隠れ認知機能低下』の可能性があります
暗算をしながら歩いてみる
最近の研究で、「二重課題歩行」が困難な高齢者では、認知症発症に関連する脳の部位の萎縮が進んでいることが明らかになりました。二重課題歩行とは、簡単な暗算などのストレスをかけながら歩くことです。
例えば、普段は何の問題もなくしっかり歩けるのに、100から1ずつ引いた数を口に出しながら歩いただけで、とたんに足がもつれてしまう。こんな症状が出たら、認知機能の低下のサインかもしれません。
通常は、足運びを特に意識しなくても歩けますが、認知機能が低下してくると歩くことに対する「注意の必要量」が高まってしまいます。そのため、他のことに注意を向けられると、足がうまく前に出なくなってしまうのです。
進行をくい止める「二次予防」のために
信号が変わる前に横断歩道が渡り切れないなど、見るからに歩く速度が落ちてきたら誰もが変化に気づきますが、二重課題歩行が難しくなっているという変化は、日常的にはわかりにくいものです。見た目には現れない「隠れ認知機能低下」といえるでしょう。しかし、もともと「ながら動作」が苦手な人もいるので、二重課題歩行の困難な人がすべて認知機能が低下しているということではない点は注意が必要です。
実は、二重課題歩行を行うことが認知症発症の予防になるかどうかはわかっていません。しかし、自分で簡単に変化がわかるという意味で、認知機能低下や認知症発症の早期発見の目安にはなります。重症化を防ぐ二次予防としての役割が期待できるということです。
軽度認知障害(MCI)※の高齢者では、二重課題歩行をするときに20%くらい歩くのが遅くなる人では、将来の認知症発症率が2.5倍から4倍高くなるという調査結果もあります。いつでもできるチェック方法として気軽に試してみましょう。
※軽度認知障害(MCI)とは
認知症ではないが、認知機能が年齢相応よりも低下した状態(日常生活能力は維持されている)。認知症に移行する者が多く認知症予備軍として考えられているが、MCIの3人に1人は認知症を発症しない、もしくは正常域に戻ることが知られている。
桜井良太
東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究員。長野県生まれ。首都大学東京人間健康科学研究科修了後、早稲田大学スポーツ科学学術院(日本学術振興会特別研究員)、ウエスタンオンタリオ大学博士研究員を経て現職。高齢者の安全な運動行動を阻害する認知的要因の解明を主な研究興味とし、現在では歩行機能低下と認知症発症の関連性について研究を進めている。2015年米国老年医学会優秀若手研究者賞などを受賞。
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