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  3. 認知症を予防しよう:「筆記予防法」を活用したストレスマネジメントで認知症予防

シェアする、書き出す。簡単ストレスマネジメント。

ストレスは心だけでなく、身体にまで影響を及ぼします。では、認知症とのつながりはどうなっているのでしょうか。悩みや不安が尽きない現代社会のなかで、どのように年齢を重ねていけばよいのか、ストレスマネジメントの方法などを研究されている小川将先生にお話を伺いました。

ストレスがあると、認知症になりやすいのでしょうか?

うつになりやすくなるので、発症のリスクは高まります

ストレスは受け止め方で変わる

認知症とストレスには、深い関係があることが明らかになっています。その前に、そもそもストレスとは何なのかを知っておきましょう。

ストレスのもととなった出来事を「ストレッサー(刺激)」と呼びます。例えば「定年退職」などの出来事、原因のことです。これに対してどう反応するかは、人によって異なります。「自由な時間が増えてうれしい」と受け止めればストレスにはなりませんが、何もすることがなくて不安を感じたらストレスになります。誰もが幸せに見える「結婚」も、人によってはプレッシャーを感じてストレスにつながります。

この受け止め方は、個人の性格や過去の経験などによって違います。つまり、同じストレッサーに見舞われても、そこからストレスが生じるかどうかは人それぞれなのです。生きていれば何らかのライフイベントはあるので、ストレッサーを避けて通ることはできません。しかし、受け止め方を変えることで、ストレスを乗り切ることは可能です。

うつと認知症の関係とは

ストレスがあるとうつになりやすく、精神的、身体的、そして認知機能にまで影響を及ぼします。うつ傾向にある人は、そうでない人に比べると認知症の発症率は2~3倍高いという報告があります。認知症の前駆状態(軽い状態)の人のうつの割合は、前駆状態にない人に比べると2倍となっています(朝田,2006)。ただし、認知症からうつになる可能性もあること、うつと認知症の判別は難しいこともあり、どちらが先なのかは議論が続いています。

医学的な観点からみても、ストレスと認知機能の関連は明らかです。染色体の先端に保護キャップのような「テロメア」という部分があり、全般的な認知機能に関係していますが、この部分は年齢とともに消耗して徐々に短くなっていきます。その長さを調べると、ストレスの高い生活を送っている人のほうが、より短いという研究結果が出ています(Epsel et al.,2004)。

また、歩行障害(タイプ1)ではないのに、気分がすぐれず家に閉じこもっている人(タイプ2)を2年間追跡調査し、閉じこもっていない人と比較したところ、認知機能障害のリスクが3倍にもなるという報告もあります(新開ら,2005)。外に出かけないと足腰が弱るため、歩行障害のリスクは当然高くなりますが、認知機能も同様のことがいえるのです。

どうしたらストレスを軽くすることができますか?

いろいろな方法がありますが、まずは愚痴や悩みを信頼できる人に話しましょう

人とシェアすることで解放される

いわゆるストレスマネジメントにはさまざまな方法がありますが、アメリカ心理学会が推奨しているのは、ストレスのもとから離れる、運動する、笑う、そして「人とつながりを持つ」などです。友達や家族と話したり、メールを送ったりして悩みをシェアすることが特によいとされています。

安心して話せる、信頼できる相手を選ぶことも大切です。サポートしてくれる相手別に調査したデータでは、男女に違いが出ています。男性の場合、もっともうつのリスクが低くなるのが同居家族、次いで近隣の知人・友人、別居の子・親族と続きます。女性の場合は、別居の子・親族と、近隣の知人がほぼ同じでもっともリスクが低く、次が同居家族となっています (村田ら,2011)。

「サポートは必要ない」という人も要注意

従来の社会的なサポート研究では、相談や愚痴を言う相手の存在について「いる」「いない」で回答してもらうというのが一般的でした。しかし、同じ「いない」でも、「必要ないからいない」「必要だがいない」では意味合いが違ってきます。

そこで、今回は新たに「いる」「いない」「必要ない」の3択でうつ傾向との関連を調査したところ、「いない」と答えた人に関連があっただけでなく、「必要ない」と答えた人も2年後にはうつ傾向との関連がみられるようになりました(小川ら,2018)。ある時点でサポートが必要ないと思っていても、状況が変化して必要になることもあります。そのときに孤立していた場合、うつ傾向になる可能性が出てきます。人とのつながりは、実際に必要と思う前から築いておくことが重要なのです。

人に話しにくいことをスッキリさせる方法はありますか?

誰にでも簡単にできる『筆記表現法』をおすすめします

言葉にして書き出し、心身の健康を保つ

お金も時間もかからず、誰にでも手軽にできる方法をご紹介します。1986年から研究が進んでいる「筆記表現法」です。これは、心の中にたまっているモヤモヤを書き出すストレスマネジメントで、うつ傾向や気分の改善だけでなく、リウマチ性関節炎や喘息、風邪や頭痛の改善、免疫機能の改善、認知機能の改善などが報告されています。

やってみよう!「筆記表現法」

用意するものは紙と筆記具だけです。場所は自宅や公園、カフェなどどこでもOKですが、一人きりでいられる、集中できる場所を選びましょう。

※現在、心療内科やカウンセリング機関に通っている方、向精神薬を服用中の方にはおすすめできません。治療ではなく、あくまでも「マネジメント」として利用する方法です。

15~20分、ひたすら書き続ける ステップ1

過去、現在、未来、何でも結構です。不安なこと、頭から離れないことなどを書き出します。「えっと」「うーん」といった心の声、「イライラする」「悲しい」といった感情、「〇〇さんのバカー!」など過激な言葉まで、頭に浮かんだことをすべて書きましょう。同じ言葉が出てきても気にせずに続けてください。

心の中のモヤモヤは、その出来事と向き合うことを避けてきたために生じています。自分の気持ちを言葉にすることで、モヤモヤの正体が明らかになってきます。

1日1回、できるだけ日にちを空けずに続ける ステップ2

次は、言葉となった感情に「慣れる」ことが目的です。翌日以降、同じように15~20分書き続けます。ステップ1で明確になった自分の気持ちを、さらに思う存分吐き出すことで、次第に感情的にならなくなっていきます。書いた紙は捨ててしまっても構いません。

冷静になってきたら、少し深く考えてみる ステップ3

感情が収まると、出来事に対して客観的になってきます。書き続けているうちに、人間関係のトラブルであれば「あのときはこちらの言い方が悪かったな」「相手の虫の居所が悪かったのかな」など、とらえ方が変わってきます。事実はわからなくとも、自分の中で腑に落ちる答えを見つけることが大切です。

誰かに相談することが大切だとわかっていても、話しにくいことはあるものです。一人でも日常的にできる「筆記表現法」を取り入れて、上手に日々のストレスとつきあい、健康に年齢を重ねていきましょう。

小川将

中央大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程後期課程を修了し、ストレスマネジメント手法である「筆記表現法(expressive writing)」に関する研究で博士号(心理学)を取得。現在は東京都健康長寿医療センター研究所にて、絵本読み聞かせによる認知機能低下抑制プログラムに従事。「抑うつと認知機能」、「感情表出と心身の健康」をキーワードに研究を行っており、ストレスマネジメントの研究も継続している。

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