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  3. 認知症を予防しよう:普段から知的活動によって認知機能を高め、認知機能の「予備力」を鍛えることが認知症対策には重要(1)

10年後に備えて脳の「予備力」をつくる。

「脳を鍛える」という言葉はよく聞かれます。実際の効果としてはどうなのか、そして認知症予防にもつながるのでしょうか。若々しい脳のためには、いつ頃から、どんなことを対策として始めればよいのか、高齢者の認知機能低下抑制についてさまざまな研究成果を上げている鈴木宏幸先生に伺います。

もともと勉強をあまりしていない場合、認知症になりやすいのでしょうか?

教育の長さとの関連は指摘されていますが、後から認知機能を高めることは可能です

教育年数はひとつの要因

ここに、アメリカの大規模な調査によるデータがあります。2000年、2012年の2回にわたって、1万人以上の高齢者を対象に認知症になっているかどうかを調べたものです。2000年には認知症の人が11.6%でしたが、12年後には8.6%に減っています。なぜこのようなことが起きたのでしょうか。

さまざまな要因が考えられますが、もっとも大きいことは教育年数とみられています。12年という世代の差で、教育年数の少ない人が減った、つまり教育制度が整ったことで、高校に入らなかった人が減少したということです。認知症の発症率の低下を示すこのようなデータは、カナダ、スウェーデン、イギリスなど欧米各国で数多く発表されており、教育の影響が示唆されています。

教育には単に学校の勉強ということだけでなく、さまざまな効果が含まれています。教育を受けていればたばこがリスクになるといった健康情報を理解し、危険因子を避けることができますし、知的レベルが高ければ社会へ出てからも頭脳労働に携わる可能性が高くなり、認知機能を維持しやすくなると考えられます。

しかし、教育年数はあくまでもひとつの要因に過ぎません。知的活動によって認知機能を高め、低下を防ぐことができる可能性があります。

認知機能の「予備力」を鍛えよう

101歳で亡くなったメアリーという修道女に関する貴重な研究があります。彼女は高齢になっても人々と交流し、子どもに算数を教えるなど活動的でした。その追跡調査を行っていた米ミネソタ州の研究者たちは、彼女の脳は若々しいに違いないと考えていました。しかし亡くなった後に解剖したところ、脳の萎縮がかなり進んだアルツハイマー型認知症であったことが判明したのです。

この事実は、認知症の病変があったとしても、認知機能の維持が可能であることを示しています。このとき、脳の中では何が起こっているのでしょうか。

脳の神経細胞は中心から神経繊維が枝のように伸びて隣の細胞とつながり、その経路を使って神経伝達物質を送っています。これが何千億という数の神経細胞間で行われ、私たちの意識をつくっています。

このような活動の中で一部の神経細胞が死滅すると、対応する機能が失われます。しかし、残った神経細胞が新しい枝を伸ばすことで新たな経路がつなぎ直され、失われた機能を補おうと働くのです。

つまり、あらかじめ脳をよく使っている人は経路が豊富に存在しているので、1か所でダメージがあってもその被害を抑えられるということになります。メアリーは日頃から知的な活動をしていたことで、脳が委縮しても補うことのできる、いわば認知的「予備力」が高い人だった、といえるでしょう。

認知症対策については、この予備力を鍛えておくことがカギになります。

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