激しい運動は必要ない。ほどよい活動を仲間と楽しむ。
介護予防の運動というと、筋力をつけるなど「ケガをしない体づくり」をイメージする方が多いのではないでしょうか。実はこれまでの研究で、運動は認知機能とも深いつながりがあることがわかっています。歩行などの運動と認知症に関する研究で成果を上げられている桜井良太先生に話を聞きました。
運動不足は、認知症と関係がありますか?
古くから関連性があることがわかっており、さまざまな研究が進んでいます
毎日よく歩く人の発症率は、半分近く
運動と認知症発症の関係については、各国で研究が行われています。1990年代からは特に大規模な研究が進み、さまざまなことが明らかになってきました。
まず、身体活動量・運動習慣の有無が、どう認知症に関わってくるのかをみてみましょう。
これは、1日に歩く距離別に7年間の認知症発症率を比較した研究のデータです。研究の結果、「400m歩く人(0.25マイル)」と「3.2km以上歩く人(2マイル)」を比較した場合、1日の歩行距離が400mの人では認知症の発症リスクが約2倍高くなることが分かっています。
週1回の運動で差が出たデータも
上記は海外のデータですが、日本人を対象とした研究もあります。
九州大学では福岡県糟屋郡久山町をモデル地域として、1960年代から高齢者の健康を調査しています。これは、800名以上の高齢者を17年間追跡したデータです。運動習慣がない人(運動習慣が週1回未満)の認知症発症率を1として、「週に1回以上」の運動習慣がある人を比較した場合、後者では40%ほどアルツハイマー型認知症のリスクが低くなることがわかります。
ただし、週に1回でも運動をする人は、普段から健康の意識が高かったり、日常も活発に過ごしていたりすることが多いものです。実際には何が効いてこの差が出たのかはわからないため、「週に1回運動すればよい」ということでない点は注意が必要です。
運動以外の活動量でも違いが現れる
次は特別な運動ではなく、日々の活動量でどう違いが出るかをみてみます。
これは、700名以上の高齢者について、ジョギングや体操など「運動」と意識して取り組むことだけでなく、家事やちょっとした移動も含めた「1日の総活動量」が多い人、少ない人の認知症発症率を比較したものです。5年間追跡したところ、活動量が多い人と少ない人の差が年々開いていることがわかります。その差はおよそ2.3倍にもなっています。
つまり、必ずしも定期的な運動が必要ということではなく、ガーデニングや家事など日常生活での身体活動も効果があるということです。
このような運動と認知症の関連に関する研究は、数多く存在します。もちろん他の生活習慣も関係がありますが、「運動不足がリスクを高める」ということは言えるでしょう。
運動により原因物質が取り除かれる
認知症は、毒素である「アミロイドβ」や、「タウたんぱく」という物質が脳のなかにたまることで起こります。どちらも誰の脳にも発生するものですが、アミロイドβについては通常、その多くが脳のなかにはとどまらずに排出されます。タウたんぱくも過剰に発生することはありません。
運動習慣がない人の脳をみると、運動している人に比べてアミロイドβが排出されずに残り、タウたんぱくが過剰に発生していることがわかっています。つまり、運動は認知症の原因となる物質を脳から取り除く、もしくは発生を抑制するということです。
なぜこんなことが起こるかについては、実はまだ解明されていませんが、脳の血液のめぐりが良くなるため、老廃物を外に出せる。それにより、原因物質も排出されやすい環境になっているなどの説があります。
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