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  3. 認知症を予防しよう(2):バランスの良い食事は認知症予防のキホン

現代の高齢者が抱える「少食・粗食」信仰の功罪-「かくれ低栄養」

特効薬的な栄養素は、存在するのでしょうか?

先ほどの研究結果からもわかるように、効果的とされる栄養素は多様で、結局のところ、これさえ摂っていれば予防できるというものはありません。しかも栄養成分は、私たちの体の中で互いに複雑に作用し合っていて、そのメカニズムはいまだブラックボックスです。
今言えるのは、効果的とされる栄養素を含め、総合的にバランスの良い食事をとることが重要だということです。

食に関して、現代の高齢者が抱える大きな課題があるそうですね?

それは「食の細さ」です。今の高齢者は、全体として「少食・粗食」傾向が強く、「かくれ低栄養」という問題を抱えています。

※日本学術振興会の科学研究費補助金(特別研究員奨励費)を受けて行う「高齢者における貧血と健康長寿の関連―食生活面からの検討―」(代表研究者:横山友里)の一環として実施されたもの(未発表データ)。(第4回「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方検討会」資料1(新開構成員提供資料))(厚生労働省「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方検討会報告書」より)

実際、厚生労働省の国民健康・栄養調査(平成27年)では、とくに肉や脂質の摂取不足が目立ち、年齢を重ねるほどその傾向が悪くなっていることが示されています。

タンパク質代謝の指標アルブミン値が低いと認知機能の低下速度が速い

気になるデータですが、タンパク質・脂質も認知機能に関係しているのでしょうか?

実は、私たちの研究所が行った追跡調査で、疫学的に明確になったことがあります。それは、タンパク質と脂質の摂取と関係する指標である血中のアルブミンとコレステロールの値が高い高齢者ほど、認知機能が長期的に維持されやすかった一方で、低い高齢者では認知機能の低下速度が速かった、という事実です。
つまり、タンパク質と脂質の不足が認知機能の低下を促進する、ということです。
認知症は、冒頭に述べたような栄養素、そして今述べたタンパク質や脂質などの不足、すなわち「低栄養」によって生じる健康問題の脈絡の中で発症します。したがって、まずは一日に必要な栄養素をバランス良く摂ることが大切で、それこそが認知症予防、健康長寿の近道となります。

肉や脂質を含む、多様な食品を積極的に摂り、「低栄養」を改善しましょう!

とは言え、「肉より魚」「一汁一菜」「油は禁物」といった「粗食」が健康に良いと信じる高齢者は案外多いですね?

残念ながら、そういう傾向があります。
実際、都内のある自治体で高齢者の栄養調査を行ったところ、タンパク質源の第1位は魚で、第2位は米、第3位が肉、第4位が卵でした。魚を習慣的に摂っている一方、肉や卵などの動物性のタンパク質はやはり少ない傾向なのです。
しかし肉は、魚にはない飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸、ビタミンB類、ヘム鉄といった栄養素を含む動物性タンパク質で、私たちの研究所の調査からも認知機能を高める可能性が示されたので、その考え方は改めてほしいですね。

肉や油は、認知機能に対し、どのような働きをするのでしょうか?

脂質には、脳に栄養と酸素を運ぶ血管を柔軟にする効果があり、タンパク質は脳そのものやその働きをスムーズにするための体内システムの原料になります。
私たちの調査では、脂質の指標であるコレステロール値が高い高脂血症の既往歴がない高齢者は、既往歴ありの高齢者よりも認知症リスクが高いことがわかっています。
また肉には、先ほどのタンパク質代謝の指標である血中のアルブミン値を高める効果はもちろん、神経伝達物質であるセロトニンの材料となるトリプトファンという必須アミノ酸が豊富に含まれ、元気さも担保しますから、意識して摂取すべきです。

肉や脂質は、認知症予防のみならず、介護予防や元気づくりにも効果的と言えそうですね?

その通りです。実は、私たち日本人が長寿になったのは、高度経済成長期に和食に肉、乳製品、卵が積極的に取り入れられるようになったためです。つまり、魚や野菜中心だった食事に動物性タンパク質や脂質を補い、栄養バランスが充実したわけです。
そうした日本式の食事が、免疫を強化して感染症死亡を減らし、血管を強く柔軟にした結果、国民病だった脳卒中や心臓病などの増加も抑制し、健康長寿にしたのです。
若い世代は、生活習慣病予防の観点からタンパク質や脂質の摂り過ぎを控えることが大切ですが、高齢者では、血管がもろくなる血管病を防ぐだけでなく、認知症を予防する「人との交流」といった「社会参加」を担保する生活機能の維持改善も期待できます。
したがって、肉を含む、多様な食品をバランス良くとって低栄養を防ぐ、という意識に切り替えることが重要です。

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