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  3. 認知症を予防しよう:特別な栄養素よりも「バランスの良い食事」(2)

若い頃よりも食が細くなってきました。認知症は、食べる量も関係ありますか?

少食・粗食は低栄養になり、認知症につながります。肉や脂質もどんどん摂りましょう

「肉より魚」「一汁一菜」「油は禁物」で低栄養に

今の高齢者は「少食・粗食」傾向が強く、「かくれ低栄養」という問題を抱えています。「肉より魚」「一汁一菜」「油は禁物」といった「粗食」が健康に良いと信じる人も多いようです。

都内のある自治体で高齢者の栄養調査を行ったところ、タンパク質源の第1位は魚で、第2位は米、第3位が肉、第4位が卵。魚を習慣的に摂っている一方、肉や卵などの動物性のタンパク質は少ない傾向なのです。

厚生労働省の国民健康・栄養調査(平成27年)でも、特に肉や脂質の摂取不足が目立ち、年齢を重ねるほどその傾向が悪くなっていることが示されています。

脳の働きを高める、肉や脂質の栄養素

肉に含まれるタンパク質は、脳そのものやその働きをスムーズにするための体内システムの原料になります。また、飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸、ビタミンB類、ヘム鉄といった栄養素を含む動物性タンパク質が認知機能を高める可能性も示されています。神経伝達物質であるセロトニンの材料となるトリプトファンという必須アミノ酸も豊富に含まれ、元気のもとにもなりますから、意識して摂取する必要があります。

脂質には、脳に栄養と酸素を運ぶ血管を柔軟にする効果があります。私たちの調査では、脂質代謝の指標であるコレステロール値が高い高脂血症の既往歴がない高齢者は、既往歴ありの高齢者よりも認知症リスクが高いことがわかっています。

また、タンパク質と脂質の摂取と関係する指標である血中のアルブミンとコレステロールの値が高い高齢者ほど、認知機能が長期的に維持されやすかった一方で、低い高齢者では認知機能の低下速度が速かった、という事実もあります。

認知症のみならず、健康づくりにも効果的

私たち日本人が長寿になったのは、高度経済成長期に和食に肉、乳製品、卵が積極的に取り入れられるようになったためです。つまり、魚や野菜中心だった食事に動物性タンパク質や脂質を補い、栄養バランスが充実したわけです。

バランスのよい食事が、免疫を強化して感染症死亡を減らし、血管を強く柔軟にした結果、国民病だった脳卒中や心臓病なども減って、健康長寿が実現されました。つまり、認知症の予防だけでなく、血管がもろくなるのを防ぐといった健康づくりのためにも、肉や油を含む多様な食品をしっかりとって低栄養にならないようにすることが重要なのです。

バランスの良い食事をするコツはありますか?

合言葉は、『さあにぎやかにいただく』。会話も楽しみましょう

「食のバラエティ」を毎日チェック

まずは、偏食がないか、摂っていない食品がないかをチェックすることから始めてみましょう。

目指すは7点以上!高得点ほど健康に

5年間にわたり追跡調査したところ、3点以下の高齢者は、9点以上の多様な食を摂っていた高齢者に比べて生活機能が低下する危険度が1.64倍も高いという結果が出ています。

また、3日間の食事記録調査をし、その結果と食品摂取の多様性得点を比較したところ、多様性得点が高かった人はおかずの品数が多く、さまざまな栄養素がバランス良く摂られていました。体組成を測定してみると、点数が高い人は、脂肪を除いた体重である徐脂肪量も十分で、筋肉、骨、内臓がしっかりしていました。そして、おかずが多かった人は、カロリーが決して多くなくても、いろいろな栄養素を含む食事となっており、元気でした。

1日に2食で整える。コンビニ弁当もOK

多様性スコアの点数を高くするためには、「主食」「主菜」「副菜」が揃った食事を一日3食のうち、2食で整えれば、OKです。

つまり、ご飯などの「主食」、肉・魚などのタンパク質を中心とした「主菜」、野菜の「副菜」、それに汁物を揃えた食事を一日2食、心掛けるのです。

とは言え、おかずをいろいろとつくるのも大変ですから、コンビニ弁当などを買うときに同じような観点で選ぶのも方法です。

家族や友人と外食を楽しむことも効果的

食には、認知症予防に直接効く効果と、筋力をつけて生活機能を維持し、人と交流してたくさん会話をしたり、社会参加をしたりという土台をつくって、その上で脳を刺激するという間接的な効き方もあります。買い物や趣味、おしゃべりなど、外出を楽しむ機会をつくると、知り合いが増え、情報のやり取りが増え、脳がたくさん刺激され、トータルで認知症予防につながります。

特に、人々と関わる「社会参加」は、単独で認知機能の低下を防ぐ効果があるという研究結果が数多く出されていますので、積極的に実践すると良いでしょう。すると、おいしく楽しく食べる機会も増え、良い循環ができます。バランスの良い食事をとり、体力や活動性を維持し、社会参加の機会を増やすことは、ダブルで認知症予防に効くのです。

そうやって栄養の多様性を確保しつつ、食を楽しみ、会話を通して頭を刺激すれば、一石二鳥です。

新開省二

東京都健康長寿医療センター研究所副所長(医師・医学博士)。

1984年愛媛大学大学院医学研究科博士課程修了。同大学医学部助教授(公衆衛生学)を経て、1998年より東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)勤務、2015年より現職。この間、カナダ・トロント大学医学部に留学。日本老年医学会、日本老年社会科学会、日本体力医学会、日本衛生学会の理事・評議員など。厚生労働省健康日本21(第2次)策定専門委員会委員、長寿科学総合研究事業、JST-RISTEX研究開発事業等の主任研究者などを務める。日本公衆衛生学会奨励賞、都知事賞などを受賞。

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