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  3. 認知症を予防しよう:「口」の健康を保つことが、全身の健康や認知症予防において非常に重要(2)

口の健康を保つために、何をしたらいいでしょうか?

歯周病対策としても、認知機能を維持するためにも歯みがきが注目されています。定期的な歯科受診も忘れないようにしましょう

実は複雑なことをしている「歯みがき」

歯みがきは歯周病対策の基本ですが、認知機能への効果も検討されています。簡単なようでいて、実はさまざまな機能を使った高度な行為であることを1日1回はきちんと意識し歯みがきすることで、認知症対策につながる可能性があります。

歯みがきで使うさまざまな機能

手先を細かく動かす 1

手先を動かすことは認知症対策につながると言われています。歯みがきの際に、歯ブラシを左右に細かく振動させることがポイントです。

空間を認知する 2

口の中の構造は複雑です。私たちは、形や大きさ、向きがすべて違う歯が並ぶ空間に歯ブラシを入れ、見えないところまでみがくという行為に、高次な機能を使っています。無意識に行いがちですが、ときには歯ブラシが当たっているところを意識しながらみがいてみましょう。

手と口の感覚を統合する 3

「ペンフィールドのマップ」と呼ばれる図があります。これは、カナダの脳外科医ペンフィールドが、脳と身体の対応部位をまとめたものです。左側が脳の前方にある「運動野」、右側がその後ろにある「体性感覚野」を示しています。

手と口はこの領域の多くを占めていることがわかります。つまり、手と口を同時に使って行う歯みがきは、脳の広い範囲を刺激することになります。

特に口の感覚を支配している三叉神経は、太くて鋭敏です。そのため口の中は敏感で、髪の毛一本でも入れば違和感があり、痛みも強く感じるのです。歯みがきで口の中を刺激することで、この神経は刺激され、脳の広い範囲が賦活することが知られています。このことは認知機能へも良い影響があるものと思われます。

口の中の感覚を正常に保つ 4

口の中にネバネバや違和感があると、食感や味覚を阻害します。すると食事がおいしくなくなり、身体にもメンタルにも影響を及ぼします。歯ブラシで刺激し、衛生的な状態を保つことが、おいしく食事を楽しむことにつながります。

歯みがきは誰もが毎日1、2回は行うことなので、運動のように特別に意識して行う必要がありません。毎日の生活の中で自然に取り組む行為を、認知症を予防するための一つの習慣として行うことは負担が少なく、大きな効果も期待されます。

ストレス社会を乗り切るための歯科受診

現代は虫歯で歯を失う人よりも、歯周病で歯を失う人が多い時代です。奥歯が急に割れたという人も増えています。ストレスの多い毎日で、歯を食いしばることが増えているのが背景にあるようです。

また、常に炎症を起こしている歯の周りは、免疫力が低下するとバランスが崩れ、すぐに症状が進みます。仕事が忙しいとき、体力が落ちているときは免疫力が下がり、歯周病原菌が活発になるのです。少し歯ぐきが痛むと思っても、休養をとるとすぐにおさまったりしますが、症状が出たときは必ず病状は進行しています。

歯に負担がかかることの多い現代社会。歯科受診は歯の痛みなどのトラブルが起こってからではなく、3か月に一度など定期的に通って、しっかり専門家によるチェックとケアを受けるようにしましょう。

滑舌が悪くなった、むせることが増えたなどの変化も、認知症に関係するでしょうか?

オーラルフレイルと呼ばれるささいな変化が積み重なると、全身の衰えや認知機能の低下につながります

「オーラルフレイル」を見逃さない

今、「フレイル」という概念が注目されています。これは身体の機能が衰えていても、適切な対応を行うことで回復できる段階のことです。フレイルをそのまま放っておくと、回復が難しい要介護状態となります。口の機能のフレイルは「オーラルフレイル」と呼ばれます。

介護認定のない高齢者の口の状態を調査したところ、次の6項目が要介護状態に陥るリスクを高める危険な衰えだとわかりました。

これら6つの項目のうち、3つ以上当てはまった人はオーラルフレイルに該当し、要介護状態に陥るリスクが高いことがわかっています。

「パ」「タ」「カ」でチェックしてみよう

オーラルフレイルの検査方法のひとつに、「滑舌」をみる方法があります。

「パパパパ…」「タタタタ…」とそれぞれ繰り返し、5秒間で30回以上(1秒間に6回以上)発音できない場合、オーラルフレイルの可能性があります。

滑舌の衰えを感じたら、しっかりと大きく口を動かして発音するように心掛けましょう。絵本の読み聞かせなど、日常会話よりも大きな声ではっきりと発音する機会を増やすことも大切です。

年齢を重ねると身体が衰えていくように、口の機能も低下していきます。そのことを早くから意識して対策しておくことは、全身の健康だけでなく、人と会うことに対する自信、意欲、脳への刺激にもつながります。豊かな人生のための口腔ケアを、ぜひ今すぐ始めましょう。

渡邊 裕

東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム研究副部長。1968年生まれ。北海道大学歯学部卒業、東京都老人医療センター歯科口腔外科医員、東京歯科大学オーラルメディシン講座助手、ドイツフィリップス・マールブルグ大学歯学部研究員、東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座講師、国立長寿医療研究センター口腔疾患研究部口腔感染制御研究室長等を経て2016年より現職。日本老年歯科医学会常任理事など。

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