予防方法には、どんなものがあるのですか?
認知機能にアプローチする一次予防と、生活機能にアプローチする二次予防に大きく分けられます
認知症の診断には、4つの基準がある
認知症を予防するためには、まず、どんな障害が起こるのかを知っておく必要があります。現在、認知症の診断基準でもっともメジャーなのは、アメリカの精神医学会が出している「DSM-5」というものです。
(A)の認知機能の障害については、1年程度の期間のなかで、本人や家族、あるいは臨床医などがはっきりと「低下している」とわかるかどうかをみます。可能であれば神経心理学検査といって、いわゆる「もの忘れテスト」など数値化された記録もチェックし、年齢の標準よりもかなり下回っているような事実があれば障害があるとみなします。これが「神経心理学的検査・定量化した臨床評価の結果」にあたるものです。
そして(B)は、認知機能の低下で自立した日常生活に支障が出ている状態です。(C)の「せん妄」とは、発熱や手術後などで一時的に精神的な混乱をきたしている状態で、やがて元へ戻ります。認知症の経過に現れた変化ではない、ということです。(D)は、うつ病や統合失調症などで問題行動が起こる場合もあるのですが、そういった精神疾患ではないということを指しています。
これらの条件がすべて揃うと、「認知症」ということになります。
認知機能が低下し、次に生活機能が低下する
予防という側面からこの基準をみてみると、最初に低下してくるのは(A)の認知機能です。次に、(B)の生活への障害が現れてきます。いわゆる要介護・要支援になる状態です。つまり、「一次予防」を考えた場合、(A)の認知機能の低下をできるだけ予防することが大切ということになります。
それでも加齢によって認知機能の低下が進み、(B)の自立した生活への影響が出てきた場合は、重症化を防ぐ「二次予防」に取り組むというわけです。以前は、認知症予防といえば一次予防だけ着目されることが多かったのですが、現在では二次予防も重要視されています。
一次予防はもちろん、重症化を防ぐ二次予防も理解しておこう
一次予防のうちで薬を使わない方法は、「生理的アプローチ」と「認知的アプローチ」に分けられます。生理的アプローチとは、脳だけでなく「全身の状態を良好に保つ」ことが目的です。これには栄養、運動、口腔ケアなどが含まれます。認知的アプローチは、「脳内の神経ネットワークを活発にする」ことが目的です。頭を使う趣味の活動や、他者とコミュニケーションをとる社会参加などの方法があります。
それでも認知機能が低下した場合、今まではできていた運動などへの意欲が落ちてきます。元気なうちは主体的に、積極的に参加していた集まりも、他の人についていけないのではないか、何か失敗して恥をかいてしまうのではないか、という不安から、消極的になってしまうのです。そのために、今まで通りの予防法を続けることが難しくなってきます。
そこで、それ以上の低下を防ぐための新たな「二次予防」が必要となるわけです。二次予防には「個人的取り組み」と「社会的取り組み」という方法があります。「個人的取り組み」では、生活環境にアプローチします。具体的には、認知機能が低下しても自立した生活ができるよう、手すりなどで住まいの環境を整えたりすることです。
「社会的取り組み」では、認知症の人を支える様々な法整備や認知症啓発、認知症サポーター養成といった社会インフラ整備で認知症の重症化を緩和することに貢献します。「認知症にやさしい社会づくり」と言えます。
このように多岐にわたる認知症予防ですが、いずれにしても完全に防ぐような手立てはありません。だからこそしっかり理解を深めて認知症リスクを減らすとともに、もしも認知機能が低下しても進行を遅らせられるよう、二次予防まで知っておくことが大切です。
今、注目されている「社会参加」の重要性
今、認知症予防では社会参加が重視されるようになってきました。運動や食事に気を付けるといっても、一人ではよほど意識が高くないと長続きは難しいものです。どんな方法であれ、誰かとつながることで気軽に続けやすくなります。
例えば食事はバランス良く食べることが大原則ですが、高齢になると肉や魚が不足するなど偏りが出てきます。それをカバーできるのが、同居家族や友人との食事です。年齢を重ねると、どうしてもあっさりしたものを好むようになりますが、若い人や子どもがいれば、肉料理などを食べる機会が増えてバランスが良くなります。
認知症予防は、いかに長く元気に活動するかという「持久戦」です。そのためには続けられる方法であること、続けられる環境をつくることもカギとなります。
認知症予防を知ろう
認知症を予防しよう
- 認知症のカギは「一次予防」。最新のアプローチとは?
- 診断と予防の重要性が高まる今、認知症の緩和や改善に着目
- 特別な栄養素よりも「バランスの良い食事」
- 激しい運動は必要ない。ほどよい活動を仲間と楽しむ
- 毎日の歯みがきで認知症対策。オーラルフレイルにも要注意
- 10年後に備えて脳の「予備力」をつくる
- 自分が楽しめる、人に喜ばれる交流を長く続ける
- シェアする、書き出す。簡単ストレスマネジメント
- 認知症の人の日常生活を支える、さまざまな取り組みがはじまっている
- 私にもできる!?ライフリー「ソーシャル・ウォーキング®」体験者に話を聞いてみました
- 「出かけるのが億劫」で、家にいることが多くなってませんか?それは認知症のサインかも!?